日本の外食産業におけるデリバリーの比率は2017年時点で3%となっており、韓国(10%)や中国(8%)、イギリス(8%)など世界各国と比べると、いまだ少ないのが現状です。逆にいえば、今後まだまだ市場は拡大する可能性を秘めているといえます。世界的にもフードデリバリーサービス市場の成長が見込まれており、モルガンスタンレー社は「2022年までに、世界のフードデリバリー率は11%まで拡大する」とも予測しています。
出前でどのサービスを利用したかのサービス別金額シェアをみると(図表2)、店やレストランからの直接の出前が36%と依然最も多いものの、主要出前7サービス(ウーバーイーツ、出前館、ごちクル、dデリバリー、楽天デリバリー、ファインダイン、LINEデリマ)も合計で約44%を占め、出前全体の半数近くに迫っていることがわかりました。
出前の利用者層をみると(図表3)、店やレストランからの直接の出前は30才以上の男性が多いのに比べ、主要出前サービスは、15~29才の若い男性の利用が32%を占め主要顧客となっていることがわかりました。14才以下の子供と一緒に食べる機会に利用が多いのは出前全体の傾向です。
働く女性の増加や働き方改革、単身世帯の増加、高齢化、住宅の高層化などにより、出前の需要が高まっています。さらにITの進化、ウーバーイーツの上陸、人手不足などにより出前サービス供給が増加するとともに、出前サービス、メニュー、支払い方法の選択肢も増え、需要が高まることで、出前市場は成長しています。2019年10月の消費増税に伴う軽減税率適用で、軽減税率の適用となる出前はさらに成長することが予想されます。
米国Morgan Stanley社より、フードデリバリーに関する興味深いレポートが発表されました。「(世界で)2022年までにフードデリバリー率が11%まで拡大する」と予測するものです。フードデリバリー率とは、外食産業の取引金額に対するフードデリバリー取引金額の割合のことと推測されます。例えば、EC(電子商取引)率でいうと2016年が11%にあたり、2016年当時、既にECが当たり前に利用されていたことを思い返してみると、11%という数値がどれほど一般家庭に普及している数字なのかがイメージし易いかと思います。つまりフードデリバリーは、今後数年で私達の生活にかなり浸透していくと予想されているのです。
【図1】フードデリバリー市場のマーケット予測(単位:百万 米ドル)(出典:Morgan Stanley)
実際、フードデリバリー市場については、2023年には、2018年のおよそ1.5倍の1,452億8,200万米ドルまで拡大すると予想されています(図1)。図1のグラフの構成要素を見ると、“出前”(グラフでは、「Restaurant-to-Consumer Delivery」水色)の引き続き大きな成長と共に、それ以上の成長率で拡大をするフードデリバリープラットフォーム(グラフでは、「Platform-to-Consumer Delivery」青)も、このフードデリバリー市場を牽引している様子が分かります。
江戸時代が発祥で300年以上の歴史があるといわれる「出前」と、現在急速にその存在感を高めている「フードデリバリープラットフォーム」はどのような違いがあるのでしょうか。以下の表1、図2に両者の違い、およびその代表的なビジネスモデルをまとめてみました。
【表1】出前とフードデリバリープラットフォームの整理(出典:情総研にて作成)
【図2】フードデリバリープラットフォームのビジネスモデル(出典:情総研にて作成)
このように、フードデリバリープラットフォームは、従来の「出前」の料理を除く“注文受付-配達-集金”をトータルでサポートすることにより、今まで出前に対応できなかった飲食店にも“デリバリー“という新しい販路を獲得する手段を提供しています。
一方、注文者(利用者)としては、“欲しいものを注文して受け取る”というサービス体験は馴染みのある「出前」と大きく変わらないが、実はその“配達側の仕組み”には、今のICT環境だからこそできる技術が多く利用されています。以下では、フードデリバリープラットフォームの代表的企業「Uber Eats(ウーバーイーツ)」を例に、その配送側の仕組みや特徴を取り上げてみます。
もちろんすべてのフードデリバリーサービスプラットフォームが、同様の機能を備えているわけではありませんが、AIやIT、そしてスマホ・GPSなどのデバイスを使うことで実現する、実はとてもハイテクなサービスであると言えるでしょう。
外食・中食市場について調査分析を行っているエヌピーディー・ジャパン株式会社の調査によると、日本のレストラン業態(小売店、自販機、社員食堂、学生食堂を除く、宅配ピザを含む)における出前市場は、2018年(1~12月計)で4,084億円、対前年比5.9%増と発表されています(図3)。
フードデリバリープラットフォームサービスを提供する代表的なプレーヤーには、「出前館」、「Uber Eats」、「ファインダイン」、「楽天デリバリー」等が挙げられる(dデリバリー、LINEデリマは、出前館のプラットフォームサービスを利用していることから、省略)。
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【図3】国内出前市場規模推移(億円)(出典:NPD Japan, エヌピーディー・ジャパン調べ)
このサービスは、表向きのサービスがシンプルなだけに、各社ともそれぞれの配送の仕組み強化に工夫を凝らしています。例えば出前館は、自社の配達員のみならず朝日新聞との提携で、新聞配達員を巻き込んだデリバリーシステムを全国に展開、Uber Eatsは、親会社の米国Uberの配車事業のノウハウと先進的システムをデリバリーに応用して、個人事業主の配達員によるシェアリングデリバリーを行っています。またファインダインは、自社の既存事業である「銀のさら」のデリバリーネットワークを活用、楽天デリバリーは、親会社「楽天」の配送ネットワークやノウハウを生かしてビジネスを展開しています。
では、実際に注文する場合においては、どのような特徴があるのだろうか。表2のとおり、全国的にチェーン展開を行っている飲食店の主力商品を例に、フードデリバリープラットフォーム上での価格等を整理し、その特徴を考えてみます。
まず1点目は、商品価格は店頭価格よりかなり高額です。吉野家の牛丼を例とすると、店頭定価は380円(税込)ですが、Uber Eats、出前館共に商品の値段は570円(税込)と約1.5倍に設定されています。これとは別に、配送料金が設定されている場合もあるため、外食と比較すると一定のハードルがあるように感じられます(今回調査した中で、ケンタッキーフライドチキン(KFC)については、店頭金額との差額がありませんでした。
これはKFC自体が、“お届けケンタッキー”(配送料300円)という自社のデリバリーサービスを行っているため、商品の価格を調整したものと考えられます。2点目は、各飲食店は複数のフードデリバリープラットフォームと連携をしていることがあげられます。ここから、デリバリーサービス自体のオペレーションには表向き大きな違いがないことが想定されます。現在、飲食店側にとってのデリバリーは、今後の可能性を探るためのマーケティング的要素を含んだ取り組みの段階ではないか、ということが推測されます。
米国では、Grubhub(グラブハブ)、DoorDash(ドアダッシュ)、Postmates(ポストメイツ)、Uber Eats(ウーバーイーツ)が4大デリバリーサービスと呼ばれている。これら4社は創業から数年のスタートアップ企業でありながら、GrubhubとUber(Uber Eatsを運営)は既にニューヨーク証券取引所に上場。Postmatesは近く上場を控えており(2019年5月現在)、DoorDashも来年には上場すると言われているなど、企業規模、業績見通し共に市場からも一目置かれる企業となっています。昨今、市場を1社、2社で独占する産業が多い中で、このように未だ多くの企業が存続し、さらに拡大を続けられる状況にあるということは、つまりそれらを吸収できる巨大な市場が存在することに他ならず、フードデリバリーサービスのポテンシャルの大きさを証明していると言えそうです。
それらサービスは、配送拠点を増やしたり、業態を広げたり、独自の機能・サービスをリリースしたりと、次のステージに向けた変化を次々と行っています。例えば、DoorDashは、全米最大のスーパーであるWalmart(ウォルマート)との連携を既に実施しており、今後その対象を他のリテール店舗にも拡大する計画とし、Postmatesは、2019年に入って近所に住む客の注文に相乗り配送を依頼することでデリバリー料金を無料にできる”Postmates Party”という機能をリリースして、新たな顧客層獲得に取り組んでいます。
またその他に、米国Google(グーグル)は、2019年5月よりGoogleのウェブ検索結果やGoogleマップ上に“Order Online”(オーダーオンライン)というリンクを掲載し、シームレスにデリバリー注文ができる連携サービスをスタートしています。オーダー時にはGoogleのアカウントが利用でき、Google Pay(決済)、Googleアシスタントとの連携も実現しています※(図4)。
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